百物語
前書き。
私がこれを書いてる時に思い浮かべたビジュアルはSFCなんで、よろしければ
そちらを思い浮かべてください。
読んでいる最中は、けっして後ろを振り返らないで下さい。
そして、一人で読んで下さい。できれば真夜中に。
あの集会があってから時は過ぎ、もう夏休みに入っていた。
思えばこれは、僕が言い出したことだ。
「七不思議の話をしたメンバーで旅行にいこう」
そんな僕の言葉に、みんなは軽くOKしてくれた。
それで、今、僕達はここにいる。
僕らの部屋は、大部屋とふすま一枚で繋がっているという奇妙なつくりだった。
大きい部屋が二つならまだしも、大部屋を囲うように小さな部屋が隣接している
のだ。
小部屋はちょうど七つ。
今、僕らは中心の大部屋で、雑談をかわしていた。
他愛ない話だった。
だが、この言葉で、話はだんだんとずれていく。
「なぁ、百物語やらないか?」
そう切り出したのは新堂さんだった。
「七人で、ですか?」
僕は聞き返す。だってここにいるのは僕こと坂上と、新堂さん、荒井さん、風間
さん、細田さん、岩下さん、それに福沢さんの七人。どうやったって百話まで到
達するのは難しい。
「ああ、それでさ・・・」
新堂さんは鞄から本を七冊だした。よく見るとそれは、すべて百物語なのだ。
表紙がそれぞれ違うのを見ると、すべて違う本なのだろう。
「これを、ひとりひとり読むんだ。93話目までな。で、あとの七話は俺達で話
す・・・。これじゃダメかな?」
「いいんじゃない?私はやるわよ。おもしろそうだしね」
一番先に本を受け取ったのは岩下さんだった。
彼女はくすりと笑うと、一話目を読み出す。
「百話終わると怪奇が起こるそうです。楽しみですね・・・・」
荒井さんが、本を取る。
「今日はすごい話を用意してきたんだ。まさかここで話せるなんて、思っても
みなかったよ」
細田さんもそれに続いた。
「・・・・・・」
風間さんは無言で本を受け取る。
なぜだか彼の目つきが少し険しい気がした。
「とびっきりの話するからね♪」
福沢さんは笑顔で本を開く。
「じゃあ、僕も」
僕が最後に本を受け取り、新堂さんは満足げに手元に残った本を読みはじめた。
しばしの静寂が訪れる。
夜中だったから、外も静まり返っている。
夏の夜らしく蒸し暑い・・・。
まったく、百物語におあつらえむきの夜だ。
そう、あの七不思議の話をしたときのような、緊迫した雰囲気。
この大部屋は今、そうなろうとしている。
最後の一人が本を閉じ、全員93話目までを終えた。
・・・あとは7話のみ。
新堂さんは鞄に手をつっこみ、ロウソクを七本だした。
もしかして新堂さんは、これをやるためにこの旅行に乗ったんじゃないかな。
ライターでひとつひとつに火をつけていく。
全部つけおわると、僕は部屋の電気を消した。
「じゃあ、誰から話しましょうか?」
僕はとりあえず仕切ってみた。あの時と同じく。
「えーとですね、もう夜も遅いので、なるべく手短にお願いします」
半分はそうだった。
でも、残りの半分は、単純に恐かったんだと思う。
あのメンバー、あのときの奇妙な静寂。
あのとき来なかった七人目は、死んでいた。学校で。
「・・・じゃあ、僕から話そう」
風間さんの声が、静かに響いた。
たったロウソク七本の、心もとない明かりの中で、僕らは話しはじめた。
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