僕がこうして話をするのは初めてですね。
・・・そうですね。あれは、みなさんに聞かされた話をパソコンでまとめてる時
でした。
ええ、翌日、あの部室でまとめてたんですよ。一人っきりで。
その時、僕はうしろに気配を感じました。
ほら、一人でいる時に、恐い話を読んだりすると、不思議な緊張感が走るじゃな
いですか。
あんな感じでしたから、うしろがすごく恐くて。
だから、振り向けなかった。振り向きたく無かったんです。
でも、作業はとめられなくて、僕はひたすらキーを叩いていました。
背筋が凍って、冷や汗が流れてきて。
でも、後ろには何かがいるんです。振り向けば、なんだかわかるかもしれない。

でも、僕には振り向く勇気がなかった。だから、僕はひたすら作業を続けてたん
です。
それで、6話目まで終わりました。
そこで僕は、作業を辞めました。だって、7話目は聞いてませんでしたからね。
パソコンの電源を落として、僕はため息をつきました。そこで、もう一度思い出
したんです。
後ろの、気配のことを。でも、振り返らないと帰れない。
だから、僕は思いきって振り返ったんです。
そこには、何もいませんでした。僕はほっとして、部室を出たんです。
外はもう暗くなってたんですよ。なんだか、それが恐くて。
・・・でもね、その「気配」は消えてなかったんですよ。
それで恐い恐いって思いながら階段の踊り場に差し掛かった時・・・。
僕は悲鳴を上げてしまったんです。なぜだと思いますか?
踊り場には、鏡があるでしょ?そこに、映ってたんですよ。

僕の後ろに、人がいました。
ところどころ腐っていて、そげおち骨が見えてて、それで顔もどろどろで血が
流れてるんです。

・・・よく見たら、体は僕の方を向いてるのに、首は反対側を向いてたんです。
反対についてるんです。頭と、体が。
僕が動けないでいると、頭がぐらりとゆらいで落ちたんです。
足下で「ぐしゃ」という音がした気がしました。
僕はそれから、どうやって家に帰ったのかわかりません。
気がついたら家にいました。それで、僕は安心してたんです。
でも、次の日学校に行ってその踊り場の鏡にさしかかった時・・・
僕の後ろには、頭のない腐った人間が映ってましたけどね・・・。

「・・・僕の話はおわります。・・・いよいよ「怪奇」が起こりますね・・・?」

僕は少しためらいながら、最後の灯りを吹き消した。
本当の闇が訪れた。

「・・・な、なにも、起こらないよね・・・?」
隣にいた福沢さんが、僕の手を握った。
僕は手を握り返すと、「大丈夫」と呟いた。
「何も起きないじゃねぇか。おい、誰か電気つけてくれよ」
興ざめしたように新堂さんが言う。
細田さんが返事をして、電気をつけた。
場が明るくなり、皆はほっとため息をつく。
「あー、恐かった!」
福沢さんが笑った。

「でも、あの本の話も恐かったなぁ。93話目の「アパートの話」」
・・・ちょっと待て。
今、アパートの話って?それ、僕も読んだぞ。そう、93話目に・・・
「え?福沢さん、アパートって言いました?・・・それ、僕も読みましたよ?」
僕より先に、荒井さんが言う。
それから皆、口々に「読んだ」と言い出した。
一番驚いていたのは、新堂さんだった。
「そんな、・・・だって俺は、全部違う本を用意したハズだ。内容が全部同じな
 んて・・・」
たしかに、ありえない。
僕らはそれぞれの本をめくってみた。・・・内容が、ぴったり一致した。
風間さんが、ぽつりと言う。
「ほら、不思議がもうひとつ。94話目からを見てごらん」
僕たちは言われるがままにページをめくる。
「これって・・・・?」
誰かが呟いた。そう、残りの7話は、僕らが話した内容そのものだったのだ
から・・・。
「なんだこれ・・・」
細田さんが、100話目からもう一ページめくる。
するとそこには、あるハズのない101話目が載っていた。
僕は音読する。

『百物語は終わった。あたりに静寂が訪れる。しかし、怪奇は起こらない。
 「電気つけろよ」男が言った。
 電気がつく。女は笑って「でも、あの本の話も恐かったなぁ。93話目の
 「アパートの話」」と言った・・・』

これは僕達だ。間違いない。
それじゃあ、これを最後まで読んだら僕達の行末が・・・?
「・・・もう、やめたほうがいいわね。寝ましょう。といっても一人じゃ寝たく
 ない雰囲気、かしら・・・?」
岩下さんが誰ともなしに聞いた。そう、これから僕達は、一人っきりの閉鎖さ
れた空間で寝なければならないんだ。
「やだよ、そんなの。・・・ねぇ、みんなで一緒にいようよ。それなら、少しは
 恐くないし・・・」
福沢さんが提案する。たしかに、それなら少しはいい。
「・・・ここで、寝ちゃいますか?」
荒井さんが言った。男とか女とか、そんなこと関係なかった。とにかく恐い。
一人でいたくない。

その夜、僕達はひとつの部屋で眠った。

「うわぁぁぁぁっ!!」
朝、誰かの叫び声で・・・もしかして僕かもしれないが、みんなは目を覚ました。
一人ひとり、恐怖に満ちた表情をし、がたがたと震えていた。
・・・無論、僕もだ。
僕は、夢を見ていた。
鏡に映った腐った人が、僕を殺してしまう夢・・・
みんなもきっと、そんな夢を見てたんだと思う。
その日、僕達は不思議な気持ちを持って別れた。
集まると恐い体験をすることになるのに、なんだか逆に仲間意識のようなもの
が芽生えてしまったんだ。


あれからしばらくたった・・・・
僕達は、クリスマスの夜を7人で過ごそうと決めた。
今度は楽しい話でもしながら、とそう決めた。
でも、・・・次は誰が、ロウソクを7本持ってくるのだろう。
もしかしてそれは、僕かもしれない。

そして、恐怖はくり返す。




あとがき。
こんにちは、はじめまして。ゆきうさぎです。
今回はこんなものを最後まで読んでいただき有り難うございました。
ここで語ってもらった怪談、実は自作なんであんまり恐くなかったと思います。

オチもいまいち弱かったかな、と。
よろしかったら、感想お願いします。
掲示板か、r_hoshi@ra3.so-net.ne.jpまで。
それでは、またみなさまと出会えることを心待ちにしております。


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